造影剤腎症って本当にあるの?update〜その③:そもそもそんな病気は臨床的にあるの?

たくさんお送りしていた「造影剤腎症」についてですが、最も重要な点は「この造影剤腎症が本当に臨床的に存在するのか?」という点です。
<造影剤腎症ってそもそもあるの?研究3つ>
其の1:Radiology 2013:事前のCKDアルナシに関わらないmeta-analysis
前述しましたが、造影剤腎症の発症が本当に死亡率と関与するか?については議論があります。先程の後方視的研究では死亡率上昇が示唆されていましたが、2013年に出たsystematic review & meta-analyssisからは、この結果を覆すデータが出つつあります(文献1:Radiology . 2013 Apr;267(1):119-28. )。
2011年9月時点までに出た造影剤腎症について評価した13研究・総勢15582名のmeta-anaysisでは、血清Creが0.8-1.8程度までの患者(なので腎不全ありなしで分けていない患者群)が抽出され、AKIは6.4%(1004人)に発症しました。しかしながら下記の図の通り、
・AKI発症率
・造影剤使用後の透析導入
・造影剤使用後の死亡
について明らかな差がなかったと報告しています。
其の2:Radiology 2018
2018年にはさらに大規模なメタアナリシスが出ました。28研究・107355名もの患者のメタアナリシスでも、やはりAKI発症・透析移行・死亡率全てに明らかな差を認めませんでした(文献2:Ann Emerg Med . 2018 Jan;71(1):44-53.e4.)。
其の3:American Journal of Roentgenology 2019
さらに2019年にはCKD患者に限定したメタアナリシスが出ました。6研究・55963名の患者のメタアナリシスでも、やはりAKI発症・透析移行・死亡率全てに明らかな差を認めませんでした(文献3:AJR Am J Roentgenol . 2019 Oct;213(4):728-735.)。
ただ、其の2と比べてサンプルサイズが少ない点、特にサブグループ解析をするとかなり患者が減ってしまう点が問題ではあります。
其の4:eGFR<30だと、低張性造影剤で腎機能悪化リスク上がるかも
一方、ここ10年の大規模研究で「造影剤腎症起こりえますよ」と報告している論文もあるにはあります。単施設で2000年1月1日から2010年5月14日までに施行されたCT検査(全17652件)における造影剤あるなし(8826名 vs 8826名)で比較した傾向スコアマッチング研究では、
eGFR<45でOdds比1.40倍(ただし95%CI=0.997-1.97と1をまたぐ)
eGFR<30ででOdds比2.96倍(95%CI=1.22- 7.17)
ということで、eGFR<30の際に造影剤腎症リスクが統計学的有意差を持って発症することを示しています(文献4:Radiology . 2013 Sep;268(3):719-28.)。
ただし、これらすべての研究における最も重要なlimitationは
集めた論文が観察研究と後方視的研究であること
です。残念ながら造影剤使用をしたいかどうかは背景疾患の検査前確率に強く関わりますので、ランダム化比較することが倫理的に許されません。また造影剤を使用したい/使用したくないという治療者によるSelection biasの影響初よく出ると思います。
これらは傾向スコアマッチングを行って背景の重症度を除去することはできるかもしれませんが、あくまでこの手法が研究者が過去にわかっているリスク因子や重症度を調整したに過ぎませんので、未知の背景因子に関して言及できないという欠点があります。
ですが、少なくとも2020年代において、Creがちょっと高い=造影剤使用しない、ということにはならないと思われます。個別の疾患リスクに基づき、必要時にはAKIを起こしうることを懸念しながら造影剤使用を躊躇わないことも大変重要かと思われます。
私自身は下記のように対応しています。
・eGFR60以上の人はあんまり何も考えてない
・eGFR30-60の人は7-8割に造影剤減量を指示する
 あとはリスク因子を除去してから行う
・eGFR<30の人は、必要性とリスクについて
 患者さんと相談して行うか検討する
以上です!編集長!!
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