好中球減少性発熱時の抗MRSA薬:バンコマイシン vs テイコプラニンまとめ

みなさま

最近の感染症内科カンファレンスで「好中球減少性発熱の血液内科患者では、バンコマイシンのトラフが下がりやすく、好中球が回復すると逆に上がりやすい」という話がでていました。僕はそのことをあまり知らなかったので調べてみたら、論文がいっぱいありました!

好中球減少性発熱の患者では
・抗菌薬の分布容積が変化しやすい
・腎機能も変化しやすい
・大体の患者が低栄養なので蛋白結合率の高い抗菌薬だと特に影響が起こりやすい
などなどあると思われるので、バンコマイシンクリアランスが上がるのは確かにその通りですね、、、

文献1:PLoS One . 2014 Nov 12;9(11):e112008.
後方視的研究

P:マーストリヒト大学病院(715床、2011.5月-2013年7月)における18歳以上の点滴バンコマイシンを投与した患者(ICU患者、およびデータ不十分な患者を除く)
E:好中球減少あり115イベント(全て血液内科患者)
C:好中球減少なし56イベント(多くは非血液内科患者、重複あり)
O:バンコマイシンクリアランスの違い(CLva)

好中球減少がある患者は、好中球減少がない患者と比べてCLvaが高い(=バンコマイシン排泄されやすい)こと、そして血液内科関連患者のみのサブ解析(E=55イベント、C=13イベント)でも好中球減少がある患者の方がない患者と比べてCLvaが高かった。

文献2:Eur J Clin Pharmacol . 2019 Jul;75(7):921-928.
性別・年齢・治療年度を調整した後方視的研究

P:Santeon Farmadatabaseにある電子カルテ情報を元にした18歳以上の点滴バンコマイシンを2日以上投与した患者(1回投与の患者、および透析患者を除く)
E/C:血液内科疾患39患者、固形腫瘍疾患39患者、腫瘍情報不明38患者合計 742回血中濃度測定してPK分析をしている)
O:非線形混合効果モデリングを用いて計算されたバンコマイシンクリアランスの違い(CLva)
において、好中球減少があると明らかにバンコマイシンクリアランスが上がると予想された(27.7%上昇:P=0.00157, 95%C.I. 10.2-46.2%)。また、非好中球減少患者において1800mg/日(600mg 1日3回)投与することで得られる血中濃度は、好中球減少患者においては2250 mg/day (750 mg1日3回)投与することでようやく得られることが予想された。

文献3:Infect Drug Resist . 2020 Jun 16;13:1807-1821.
血液悪性腫瘍and/or好中球減少患者におけるバンコマイシン投与についてのsystematic review

23件ヒットして、18件はケースシリーズ、4件は後方視的コホート、もう1件はランダム化比較試験だった。
5件のケースシリーズ従来のバンコマイシンの投与について血中濃度測定を行い、治療量以下のトラフ値を示す患者の割合が32%から88%と高いことを示した
7件のケースシリーズ+4件の後方視的コホートバンコマイシンのクリアランス(CLva)はこれらの患者で高い傾向がある一方で、分布容積(V)は対照群と同等であることを示した。
23件中5つの研究薬物動態の変化を考慮した個別の初期投与法を提案していたが,臨床現場での前向きな検証は行われていない。
4件のケースシリーズバンコマイシンクリアランスと推定クレアチニンクリアランスの相関が比較的低く,適切な用量設定に大きな課題があることが示唆された。
1件のRCT:バンコマイシンの薬物治療モニタリング(TDM)が、免疫不全の発熱性血液疾患患者における腎毒性の発生を減少させることができると述べられている

ということで、血液内科の先生方がバンコマイシンにややnegativeな印象を持たれている(かもしれない?)背景がよく分かりました。

ただ、FN患者においてTeicoplaninのほうがVancomycinより臨床的に良い結果をもたらしうるか?と言われるとそうでもなく、文献4の「The Use of Vancomycin Versus Teicoplanin in Treating Febrile Neutropenia: A Meta-Analysis and Systematic Review(Cureus . 2021 May 27;13(5):e15269.)」において、
・適合したのはしたのは9件(RCT6件、後方視的研究3件)
・臨床的アウトカムは差がない(9件全て:95%C.I.=0.96 [0.82-1.11])
・腎毒性に差がない(9件全て:95%C.I.=1.62 [0.87-3.04])
・Redmanにも差がない(3件のみ:95%C.I.=1.84 [0.36-9.56])
・皮疹の出現にはVancomycinの方が劣勢(6件のみ:95%C.I.=2.49 [1.28-4.83])
ということで、皮疹さえケアすればTDMの経験が多いVancomycinでいいんじゃないかなと思ったりもしました。ただ、TeicoplaninのTDMがしっかり利用できる(=自施設で測定し、速やかなTDM解析ができる)環境なら、Teicoplaninの方がいいかもですね。。。

タイトルとURLをコピーしました