造影剤腎症って本当にあるの?update〜その②:発症機序とリスクなど〜

造影剤腎症続きです。
とはいえ過去のデータでは造影剤使用後に腎機能悪化を起こす患者がいたことは事実です。そのリスクについてはいくつか報告されています。
<発症機序>
発症機序については下記の図がよくまとまっています(文献1:Eur Heart J . 2012 Aug;33(16):2007-15. )。基本的には下記2つが影響しました。
①造影剤そのものが起こす細胞障害(cytotoxicity)により内皮細胞障害と尿細管障害を生じさせて髄質低酸素とGFR低下を起こす
②造影剤の粘稠度(viscosity)が高いことで尿細管内の水分の粘稠度も上昇し、尿細管内圧が上昇して腎臓内への造影剤保持が起こってGFRが低下する
2006年のKidney internaltionalに掲載された造影剤腎症のレビュー(文献2: Kidney Int Suppl . 2006 Apr;(100):S11-5. )では、下記のように表現されています。
右側が「固定された(調整できない)リスク因子」
左側が「調整可能なリスク因子」です。
「固定された(調整できない)リスク因子」として、年齢や糖尿、背景の腎障害、心不全、腎移植などがあがります。「調整可能なリスク因子」としては
・造影剤使用量  ・低血圧  ・貧血/失血
・脱水  ・アルブミン<3.5g.dl ・ACEi
・利尿剤 ・NSAIDs  ・腎障害性の抗菌薬 ・IABP
などがあがります。このなかでも、
①造影剤の使用量
②造影剤の種類
に着目した報告があるので、それを元にまとめます。
<①造影剤の使用量>
これについては、造影剤使用量依存的にAKIが増えるとする報告があります(文献3:Ann Intern Med . 2009 Feb 3;150(3):170-7.)。
イタリアの単施設における561名のPCI患者における研究です。造影剤使用量を
・単純な使用量
・体格で計算した最大使用量と使用量の比(contrast ratio)
を4グループに分け、グループごとのAKI発症・死亡率をみました。
造影剤使用量が増えると「AKI」「死亡率」ともに上昇していくことがわかります。ただしこれは単施設後ろ向き的研究ですので、造影剤を多量に使用したくなる背景の疾患重症度などは調整できません。
<②造影剤の種類(浸透圧(イオン)、粘稠度)>
過去には造影剤の種類によっても、腎症発症リスクは異なるとされました。
1995年に、心臓血管造影(Cardiac angiography;CAG)を施行する1196名に対して非イオン造影剤(iohexol(オムニパークⓇ)=低浸透圧)とイオン造影剤(ガストログラフィンⓇ=高浸透圧)を使用するRCTが報告されました(文献4:Kidney Int . 1995 Jan;47(1):254-61.)。
結果的には、後者の方が明らかに腎障害発症が増えたとされました。
これらの研究以降、高浸透圧性造影剤に関しては使用が中止され、2005年以降日本では高浸透圧性造影剤の注射使用はありません
さらに、現在使用されている造影剤は血清とくらべて等張な造影剤と低張な造影剤がありますが、この2つについては明らかな造影剤腎症の発症リスク差は認めておりません(腎障害患者における ヨード造影剤使用に関する ガイドライン2018参照 https://cdn.jsn.or.jp/data/guideline-201911.pdf
造影剤の粘稠度が高いと尿の粘稠度が高くなって腎臓に障害を起こす、とする研究もラットでは結構行われています。
文献5(J Am Soc Nephrol . 2007 Nov;18(11):2912-20.)ではRatにデキストラン・マンニトール・イオプロミド(低粘稠度造影剤)・イオジキサノール(高粘稠度造影剤)を投与した際に、排泄される尿の粘稠度をみた研究では、明らかにイオジキサノールで尿の粘稠度があがります。どちらも等浸透圧造影剤ですので、粘稠度が明らかに影響しているだろうと結論されています。
患者に投与した前後でみた尿浸透圧の違いもデータがあり、患者数は少ないですが下記の通り尿粘稠度変化率はイオジキサノール(高粘稠度造影剤)群がイオプロミド(低粘稠度造影剤)群の倍になります。
ただ、人間で研究されたデータもありますが、造影剤腎症発症率に差は出ませんでした。CKDを背景に有する420名に対し、イオプロミド(215名)とイオジキサノール(205名)でのランダム化比較試験において、Creの変化に明らかな差がなかったと報告されています(文献6:Am J Cardiol . 2011 Jul 15;108(2):189-94.)。
以上のお話をまとめると、
1)造影剤腎症は、造影剤そのものの細胞障害と
  造影剤の粘稠度が関わる可能性がある
2)発症リスク因子は
  調整できないリスク因子:
  年齢や糖尿、背景の腎障害、心不全、腎移植など
  調整可能なリスク因子:
  ・造影剤使用量  ・低血圧  ・貧血/失血
  ・脱水  ・アルブミン<3.5g.dl ・ACEi
  ・利尿剤 ・NSAIDs  ・腎障害性の抗菌薬 ・IABP
3)造影剤の使用量と造影剤腎症の発症や死亡率は相関しうる
  ただし、それはカテーテル治療などで使う大量の場合のみ
4)高浸透圧造影剤はかなりリスクだが現代では使用されず
  等張浸透圧・低張浸透圧については、臨床的に差がない
5)造影剤の粘稠度の違いは尿の粘稠度にも違いをもたらしうるが
  造影剤腎症という臨床的な影響はでづらい
以上です。
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