CPPD update 2021(疫学、病態まで)

みなさま

総合内科ではCPPD(calcium pyrophosphate deposition diseases)をよく診療するので、updateしておきたいと思います。
「CPPD」「review」とgoogleに入力したら
・NEJM2016の総説
・Clinical and Experimental Rheumatology2016の総説
・2011年のEULAR recommendation(古いですが)
がヒットしましたのでまとめておきます。
<用語の整理>
CPPDは臨床状況によって表現型が異なりますので、用語は正確に使っておいた方がいいと思います。基本的には2011年に発行されたEULAR guidelinesから下記のように定まった臨床状況別の用語を使用します(Clin Exp Rheumatol . Sep-Oct 2020;38(5):1001-1007. )。医学的には「偽痛風」と言う表現型はだんだん失われつつあります。
Asymptomatic CPPD:明らかな臨床的影響のないCPPD
OA with CPPD画像診断または組織学的検査でOAの構造変化も示す関節の炎症がないもの。
CPPD(過去には「pseudo-OA」)。CPPDを伴わないOAと同様、症候性または無症候性どちらも含む。
Acute CPP crystal arthritisCPPDを伴う急性発症の自己限定的な痛みを伴う滑膜炎(以前は「pseudogout」)
Chronic CPP crystal arthritis:CPPDに関連する慢性炎症性関節炎(以前は「pseudo-RA」)
ちなみに、痛風・偽痛風などの結晶性関節炎発見の祖とされるDaniel J McCarty、CPPD疾患の慢性変性多関節型が全体の約50%を占めるのに対し、急性CPP結晶性関節炎は症例の約25%を占めるとしています(Bull Rheum Dis 1975;25:804-9.)。
さらにちなむと、Daniel McCartyは自分と当時のフェローの膝に尿酸塩を注入して急性関節炎を引き起こすと言う荒業を報告しており(Lancet . 1962 Dec 29;2(7270):1380-1.  )、なかなかのパワハラぶりを発揮していますw。
<頻度>
CPPDについては、推定値はさまざまですが、欧米の成人人口の4〜7%と推察されています(N Engl J Med 2016;374:2575-84. )。基本的に女性が多いとされますが、高齢になればほとんど性差はありません(Ann Rheum Dis . 2011 Apr;70(4):563-70.)
ただし、残念ながらCPPD疾患の有病率に関する現在の理解は、主にレントゲン写真におけるで検出された軟骨石灰化症に基づいているため、臨床的に重要なCPP結晶性関節炎の頻度はわかりません。
しかもそのレントゲン所見である軟骨石灰化症は、
臨床的に重大なCPPD疾患の患者の約40%しか同定できない
関節破壊が進んだ重度の軟骨喪失の患者では、逆に視覚化するのが難しい
ため、レントゲンのみで正確な診断や疫学調査を行うのが困難な疾患でもあります。
特に膝の線維軟骨における軟骨石灰化症は、関節炎のない患者に発生する可能性があり、ハイドロキシアパタイトやリン酸二カルシウム二水和物などのピロリン酸カルシウム以外のミネラルで構成されている可能性もあります。
<偏光顕微鏡(自験例)と臨床症状>
関節穿刺液を偏光顕微鏡で観察すると、黄色と青に見える四角形の存在が明らかになります。偏光顕微鏡を用いて光の刺入軸を変えてみる(偏光をあてる)と、色調が黄色から青(青から黄色)に変化する際、結晶が存在するといえます。
・ピロリン酸カルシウム結晶
・痛風結晶
この偏光顕微鏡による色調変化は痛風でも起こりますが、痛風だと線状の結晶構造になりますので、見た目が全く違います。

罹患関節は数多ありますが、基本的には膝、手関節など大関節が多いです。意外と恥骨結合に多いのも特徴です(Ann Rheum Dis . 2011 Apr;70(4):563-70.)。
<病理学的イメージ>
イメージはNEJMの総説が一番綺麗です(N Engl J Med 2016;374:2575-84. )。
CPP結晶の形成は、関節軟骨の細胞周囲マトリックスで起こり、関節軟骨小胞として知られる細胞外小胞によって促進されます。
ピロリン酸(PPi)は、細胞外ATPから生成され、カルシウムと複合体を形成してCPP結晶を生成します。CPP結晶は滑膜腔に炎症を誘発しますが、プロスタグランジンE2とマトリックスメタロプロテイナーゼの産生により、生体力学的悪影響と関節組織への直接的な異化作用ももたらしますこれらの要因その場でのカルシウムのCPP結晶沈着によって示されるように、最終的には軟骨の変性を引き起こします。なので、CPPを発症させると軟骨が変性して、さらには関節変形などを引き起こしかねません。
<リスク因子(Ann Rheum Dis . 2011 Apr;70(4):563-70.)>
CPPD疾患は明らかに老化の疾患であり、60歳未満の患者ではまれです。膝、骨盤、手首を含むX線検査では、85歳以上の患者の44%で軟骨石灰化症が検出され、60歳以上の10年ごとに有病率は2倍になります(Ann Rheum Dis 1983;42:280-4.)。
関節外傷もCPPDの強力な危険因子です。この関連性は膝の半月板で最もよく示されます。ある研究では、半月板切除後数十年で、手術治療された膝の20%で軟骨石灰化症が発症する一方、反対側の非手術膝のわずか4%しか発症しないという事実に基づいています(Lancet 1982;1:1207-10.)。
また、いくつかの固有の疾患もリスク因子となり得ます。具体的には
・副甲状腺機能亢進症(高カルシウムを補正してもリスクは持続)
・低マグネシウム血症(特にGitteleman syndrome)
・ヘモクロマトーシス
・低ホスファターゼ血症ALPの機能低下により関節外ピロリン酸が代謝されずにCaと結合する)
あと、痛風の患者の5%にCPPDも合併します。
60歳未満であるにもかかわらずCPPDを発症する患者では、上記代謝性疾患の検査および検査が適応となりますので要注意です
ちなみに、若年発症のCPPDを見た際にもう1つ注意すべきは遺伝です。2つの遺伝子座が家族性CPPDに関連しています。
①染色体5pのCCAL2遺伝子座の変異(常染色体優性遺伝)→おそらく、ANKH(the human homolog of protein product of the murine progressive ankylosis gene)タンパク質の機能の獲得に起因します
②TNFRSF11B(オステオプロテゲリン)遺伝子の機能獲得型変異→これは最近発見されたそうで、早期発症の骨関節炎と軟骨石灰化症の家族で報告されました(Ann Rheum Dis 2015;74:1756-62.)。
あと、Acute CPP crystal arthritisを起こすリスクとしては、急性疾患・関節外傷・術直後などの安静によって生じ得ます。ヒアルロン酸注もリスクである可能性が示唆されています。最後に注意すべきはループ利尿薬です。
まずは以上です。次に治療をお送りします。
佐田 拝
タイトルとURLをコピーしました