今日はカンファで高アンモニア血症を呈した意識障害の80代女性のプレゼンテーションがありました。今回が初発で肝硬変の病歴は全くなく、肝逸脱酵素上昇も肝腫大/萎縮もなく、肝硬変は凡そ無さそうな状況でした。最終的にはクレブシエラ菌血症を認め、これによる尿素産生による高アンモニア血症であろうと暫定診断しました。
高アンモニア血症の鑑別は、下記のcase reportにあるフローチャートが有名です(Am J Med . 2010 Oct;123(10):885-91.)。
原因としては7つに大別されます。この項では1)−6)までを語り、7)はやや長尺なので次に別掲します。
1)肝硬変
いわずとしれた、高アンモニア血症の最多要因の1つです。肝細胞のなかにあるurea cycleが作動しないことによって生じるアンモニア代謝異常です(N Engl J Med 2016; 375:1660-1670)。NEJMの図はやっぱりきれいっすね。
2)薬剤
薬剤性高アンモニア血症の代表格はバルプロ酸です(Ann Pharmacother . 2004 Oct;38(10):1643-7. )。機序はじつはまだ曖昧だそうなのですが、下記3つの因子の関与が示唆されています。
バルプロ酸以外にも、下記のような薬剤での高アンモニア血症があるようです(Pediatr Nephrol . 2012 Feb;27(2):207-22.)。
・サリチル酸塩 ・カルバマゼピン ・トピラマート
・トラネキサム酸 ・化学療法剤(アスパリギナーゼ、5-FU)
・リツキシマブ
いろいろあるんですね、、、
3)尿素産生菌による感染
腸内細菌科(特にProteus spp.)によるアンモニア過剰産生が有名ですが、そのほかにもいろいろな微生物が尿素産生能を持ちます(PLoS Pathog . 2014 Dec 11;10(12):e1004472.)
細菌:Clostridium perfringens 、Klebsiella pneumoniae、Salmonella spp.、Staphylococcus saprolyticus、Ureaplasma prealyticum 、Yersinia enterocolitica, etc.
真菌:Cryptococcus neoformans、Coccidioides posadasii, etc.
ちなみに、流石に感染単独での高アンモニア血症の報告はないがHelicobacter pyloriも結構重要な尿素酸生菌です。しかも感染者と非感染者で血中アンモニアレベルに差が出るとの報告もあります(Hepatol Res . 2007 Dec;37(12):1026-33.)。
4)最近の手術
肺移植、骨髄移植、血管シャント、および肥満手術などは、高アンモニア血症を引き起こすことが知られており、患者の治療および手術歴の文脈で念頭に置くことが重要です。特に尿管ー腸管吻合術は、腸への尿の迂回により、高アンモニア血症の循環を引き起こす可能性があります。
5)高カロリー輸液
通常、身体はタンパク質の消化および吸収を調節できるが、中心静脈栄養の場合、高アンモニア血症になる可能性が理論的に存在するようです(ただ、私は経験したことはありません)。症例報告レベルだと、完全中心静脈栄養に伴う高アンモニア血症の症例が報告されておりますが、 中心静脈栄養を受けている患者の窒素負荷により高アンモニア血症が生じ、それがきっかけで患者の尿素代謝酵素の欠陥が発見された症例もあるようです(Gastroenterology. 1995 Jul;109(1):282-4.)。
6)門脈圧亢進以外の門脈大循環シャント
個人的には数例経験があります。シャントの構造分類は幾つか諸説ありますが、よく引用される分類としては(J Pediatr Surg . 2011 Feb;46(2):308-14.)下記の分類が上がります。
Type I:門脈からの血液供給がない(主に肝外シャント)
Type II:門脈からの血液供給がある(主に肝内シャント)
となります。また、Type IIはa-cにわかれ、
_IIa:左門脈 or 右門脈から生じたシャント(静脈管開存を含む)
_IIb:主門脈から発生するシャント
_IIc:腸間膜静脈、脾静脈、または胃静脈から生じるシャント
となるようです。シャントをコイルなどで塞栓させると再発がなくなりますが、Type IIの多発例やType Iの重症例では肝切除や移植が必要ともされます(Eur J Pediatr . 2018 Mar;177(3):285-294.)。
Take home messageは下記です。
高アンモニア血症を見たら
1)肝硬変 2)薬剤 3)尿素産生菌による感染
4)最近の手術 5)高カロリー輸液
6)門脈圧亢進以外の門脈大循環シャント
7)代謝異常
に分けて分類していこう!
次項では、残りの大ネタである代謝疾患についてまとめてみます。